ひよこの出番。
兄弟の父親はイノセントのデモニスタ。
武器は不明。
でもレベルは80くらいっていう恐ろしく非公式な存在。
どんくらい強いかって言うと、
ガノッサスさんとかリアイベ級のボスも一人でやっちゃうくらい。
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少年が生まれて初めて見たマスカレイドは、大好きだった長兄その人だった。
オラクルの天啓を授かり、エンドブレイカーとして覚醒した。
それが嬉しくて、駆け足で階段を登り、兄の部屋の扉を開けた直後だった。
赤く染まる絨毯、返り血を浴びて割れた窓ガラス、部屋中に散らばる書物。
倒れ伏した一番上の兄。仮面。二番目の兄。父親。血のついた太刀。
「お…兄ちゃ……?」
何が起こっているのかわからずに、少年はただ震える声で呟く。
頭上にいたスピカが怯えたように、小さく鳴いた。
「おや、これが見えるんだね。おめでとう」
太刀についた血脂をカーテンで拭いいながら、兄はにこやかに言った。
そして、ついさっきまで自分の兄だったものを蹴り転がす。
「ナハト、こっちに来てよく見てごらん。これがマスカレイドだ」
血を流す兄の左胸に張り付いた仮面には、大きな亀裂が入っている。
ナハトと呼ばれた少年の目の前で、父親が、鼻歌混じりに靴の底でそれを踏み拉く。
びくん、と震えた少年を微笑を浮かべて振り返り、父親は口を開く。
「これで君も一人前だ。おめでとう、ええと――…、まあいいや、これからは、君にも手伝ってもらうからね」
クロフォード家に生まれたエンドブレイカーである限り、マスカレイドを滅ぼすことは与えられた役割であり、義務であり、宿命であると。
本人がまるでそれを信じていない口調で、ナハトに言い聞かせる。
それが、身内だろうとなんであろうと、滅ぼすべきものは滅ぼすべしと。
「例えそれが、元婚約者であったとしても、ね」
意味ありげに兄は呟き、微かに鈴の音を鳴らしながら太刀を鞘に収める。
「ようこそ、常人には見えざる闘争の世界へ」
「―――っ!」
「おう。どうした坊主、漏らしたか」
「も…漏らしてないよっ!」
「いい加減うなされるのやめねぇと、外に放り出すぞお前」
「どうしようも出来ないじゃんか……」
咄嗟に言い返した後に、また夢を見ていたのだと、ナハトはため息をついた。彼を気遣うように、スピカが体をすり寄せてくる。
そこは実家ではなく、ランタンの薄ぼんやりとした明かりと、薬草の香りが充満している、いつものテントの中だ。
家を飛び出して3年。ナハトは12歳になった。
今ではただやり方が悪すぎただけで、あれはエンドブレイカーとしては(それなりに)正しい判断だったとは思える。
やり方が悪すぎたことが引っかかってはいるのだが。だからこうして、家出をした後も夢に見る事がある。
「…なあ、おっちゃん」
眠気も失せて、膝を抱えて座りなおしながら、ナハトは傍らに座っていたその男に声をかける。
壮年の男は、東方で手に入れたという派手な柄の羽織を肩にかけ、煙管を吸いながら手元の書物に目を通していた。
彼は偶然に家出した小さい生意気な子供を拾い、そのまま自分のキャラバンの一員として匿ってくれている。
――と、ナハトは思っている。
「なんだよ」
男の眼鏡にランタンの明かりが反射され、表情までは見えない。
何かを言いかけて、ナハトは言葉を飲み込んだ。何を言いたかったのか、わからなくなったからだ。
「……なんでもない。お休み」
スピカを抱きしめて、男に背を向ける。しばらくは背中に視線を感じたが、やがて飽きられたのか、気配を感じなくなる。
毛並みの良いスピカの背中に鼻先を埋めながら、ナハトは強引にも目を閉じた。
『おっちゃんだって、夜中にうなされてることがあるじゃんか…』
言おうとしていた事を思い出した。自分ばっかり外に放り出されるのは勘弁と思いながら、ナハトは再び眠りに落ちる。
今度は、兄の夢を見ることもなかった。
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